研究者のための英語論文の読み方のコツ(1):論文の構成を理解する

論文を読み始める前に、論文全体の構成を確認しておくことが大切だ。論文の基本構造は、Introduction, Methods, Results, and Discussion からなるIMRaD構造である。ここでは、IMRaD構造や類似の構造ことを論文の大枠構造と定義する。IMRaD形式の論文では、Introduction, Methods, Results, Discussionの4つの 大見出し(レベル1見出し)によって論文が構造化される。どの論文でも同じ構造であれば、読者にとっても著者にとっても分かりやすい構造と言えるだろう。

IMRaDの各セクションの中の構造を、ここでは論文の下位構造と定義する。論文の各セクションは、形式的にはレベル2以下の見出し(小見出し)で構造化される。しかし、レベル2以下の見出しにはユニークなものが多く、そこに何が書いてあるかは予測しにくい。個々の論文によって異なるからだ。そこで、論文の下位構造を統一的に理解するために、MoveとStepの概念を学ぶことを推奨したい。ここでは、論文の構成について、大枠構造と下位構造に分けて解説する。

目次

論文の大枠構造(Section: IMRaD)

論文の構成の基本は、IMRaD構造(Introduction、Methods、Results、and Discussion)である。多くの論文がこの構造で書かれているが、研究分野やジャーナルや著者の好みのによって、様々なバリエーションが用いられる。そこで、論文を読む際に構造を確認しておくことが重要なのである。ジャーナルによっては、見出しのレベルの違いが分かりにくい場合もあるので注意しよう。基本となるIMRD以外のバリエーションとしては、以下に示すものある。

IMRD

IMRDC

IRDM

IRDCM

ILMRD

ILMRDC

IM[RD]C

ILM[RD]C

IL[MRD]C

None

IMRDが典型的なIMRaD型である。IMRD以外の要素としては、CConclusionLLiterature Review[RD]がResultsとDiscussionが一つにまとめられたResults & Discussionを意味する。分野によっては、このような構造を取らず、あえて言えば序論・本論・結論Introduction/Body/Conclusion)の型が使われる分野もある(ここではNoneと表現する)。IMRaDの型の最も大きなメリットは、IMRD(Introduction、Methods、Results、and Discussion)のそれぞれが大見出しとして使われるため、どの論文も同じような構造になるということである。これは、読者にとっても著者にとても分かりやすさ(知りたい情報がどこにあるか)という点でとても大きなメリットである。対照的に、序論・本論・結論Introduction/Body/Conclusion)の型では、本文中にBodyという大見出しが使われることはない。実質的に個々の論文でユニークな大見出しが使われることになるので、構成の分かりやすさという点では、IMRaD型に大きく劣る。

論文を読む際には、まずは大見出しを確認しよう。見出しには何段階ものレベルが存在する場合があり、各レベルの区別が分かりにくいジャーナルも多いので注意が必要だ。

論文の下位構造(MoveとStep)

論文の下位構造は、形式的にはレベル2以下の見出し(小見出し)で作られる。しかし、レベル2以下の見出しには、論文間の共通性がそれほど大きくない。つまり、どの論文も同じ見出しで構成されるという形になっていないのだ。そのため論文の下位構造を理解するためには、小見出しに着目するのはあまり賢明ではない。むしろMoveとStepという概念に着目すべきであろう。MoveとStepについては、別記事にまとめてあるので参照しよう。

Introductionの構造

ここでは、Introductionの構造について述べる。Introductionでよくある展開を図解すると、次のようになる。MoveとStep使って「IM-1→IM-2→IM-3」と展開し、同時に「General statements→Thesis statement」へと話を絞り込んでいくという流れだ。そして、多くの論文で「背景→問題→解決」繰り返し構造が用いられるという特徴もある。特に、著者の主観を述べるStep-2に注目することが読解のためのポイントだ。パラグラフごとに、著者の言いたいことは何かを考えよう。それを示す一文はどれかを探そう。それは、著者の主観であることが多いことが分かるだろう。

IntroductionとDiscussionの呼応(類似性)

別記事でも述べたが、実験系の分野のDiscussionMoveStepは次のようになる。

DM-1: 本研究の概略
— Step-1: 背景情報の再提示
— Step-2: 本研究の成果の概略
— Step-3: 本研究の結論と意義
DM-2: 個々の実験の考察
— Step-1: 個々の実験の背景と先行研究
— Step-2: 個々の実験結果の提示
— Step-3: 個々の実験の解釈・主張
— Step-4: 個々の実験の課題
DM-3: まとめと将来展望
— Step-1: 本研究のまとめと結論
— Step-2: 本研究の将来展望

DM-1やDM-3を書くときの重要なポイントは、Introductionと呼応するように組み立てることである。論文の最初と最後を首尾一貫させると、論文の説得力が大幅に向上する。DiscussionのStepのうち、マーカーを付けた部分が、IntroductionのIM-3のStepに呼応する。IntroductionとDiscussionとで類似する部分は、次図のようになる。

論文の最初と最後を呼応させて一貫性を持たせれば、論文の説得力は大いに改善される。次図のようなイメージである。なお、呼応させる部分は、ほぼ同じ内容を少し言葉を変えて述べればよいだろう。

まとめ

論文の組み立てには、多くの論文で共有されている構造があることを理解しよう。この構造は、MoveとStepという概念で理解すると分かりやすい。Move構造に加えて、「背景→問題→解決」繰り返し構造や、IntroductionとDisucussionとの呼応関係(類似性)を活用することは、論文の各セクションを書く際の重要な戦略となる。

論文の構成を理解した上で、以下のポイントに注意しよう。

  1. 大見出しを確認する
  2. 著者の主観を述べるIM-1とIM-2のStep-2に注目する
  3. IM-3とDM-1/3との呼応(類似性)を確認する
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