英語論文執筆のための英語学習は、論文英語だけに範囲を限定することが重要だ。論文執筆に英会話は関係ないし、メールの文章なども論文とは大きく異なる。投入できる時間を考えたら、「まずは英語力を上げてから」などと悠長なことは言っていられない。ただし、文法的に正しい文章が書けることは絶対条件である。ミスがたくさんある論文では、そこに何が書いてあるのかが正確に理解できない。レビュアーとしてはリジェクトにせざるを得ないだろう(少なくとも私はそうする)。
ここでは、英語論文執筆のための文法力を鍛える方法として、文の構造分析を行うことをお勧めしたい。論文では、どう読んでもこうとしか解釈できない文章を書くことが必要だ。そのため、複数の解釈ができない明確な文法が使われ、イレギュラーな表現が使われることも滅多にない。以下の事項を参考に、文の構造分析をやってみよう。
文の構造分析の方法
文の構造分析を行う際には、ちょっとしたコツがある。文の主要素と副要素に分け、それぞれの構成要素を理解することである。
文の主要素
文の主要素には、以下のものがある。
- 主語 ——(前に付く冠詞/代名詞/形容詞+)名詞/代名詞/名詞節/名詞句
- 動詞 ——(助動詞+)動詞
- 目的語 –(前に付く冠詞/代名詞/形容詞+)名詞/代名詞/名詞節/名詞句
- 補語 ——(前に付く冠詞/代名詞/形容詞+)名詞/代名詞/名詞節/名詞句/形容詞/to不定詞句
ここでポイントとなるのは、主語・目的語・補語となる名詞(相当語句)の捉え方だ。中心となる名詞だけでなく、前に付く冠詞・代名詞・形容詞などを、すべて合わせて「名詞」と考えるのだ。一方で、名詞の後の前置詞句などは、以下に示す副要素(形容詞句)として区別する。
文の副要素
文の副要素には、以下のものがある。
- 副詞 — 名詞以外を修飾、(通常)修飾される語の前に置く
- 形容詞句・副詞句
- 形容詞節・副詞節 —— ただし、内部に文の主要素を含む
句・節の特徴
句や節を機能的にまとめると、以下のようになる。
形容詞句・形容節(文の副要素)
- 形容詞句 — 名詞の後に来る(前置詞句、分詞句、to不定詞句、形容詞+前置詞句、補語となるto不定詞句)
- 形容詞節 — 名詞の後に来る(関係代名詞/関係副詞に導かれる)
形容詞句・形容詞節は名詞に直後に来る。これが見分け方のポイントだ。厳密には、直前の名詞を修飾しなければ、副詞句・副詞節であることが多いわけだが、それほど迷わないように書かれているのが論文である。
副詞句・副詞節(文の副要素)
- 副詞句 — (主に)名詞の後以外に来る(動詞/形容詞の後、文頭、文末など)
前置詞句、分詞句、to不定詞句 - 副詞節 — 従位節(従位接続詞に導かれる)
副詞句・副詞節はちょっと複雑かもしれない。そこで、形容詞句・形容詞句でなければ副詞句・副詞節だという、消去法で考えよう。ほぼ二者択一なので、だいたい正しく判断できる。以下の名詞句・名詞節は、文の主要素となるのだ。
名詞句・名詞節(主に文の主要素)
- 名詞句 — 動名詞句(主語、前置詞句の中身)
to不定詞句(目的語、補語) - 名詞節 — that節(目的語、名詞の同格、補語)
whether/if/how節(目的語、主語、補語)
ここでは、次のような使い分けに注意しよう。名詞句としては、動名詞句が主語として使われるのに対して、to不定詞句は目的語や補語として使われる。また、通常、that節は主語にならないので気をつけよう。
動詞の文型
文の構造は、使う動詞によって異なってくる。従って、文の構造分析を行うためには、動詞の文型を理解しておく必要がある。注意しておきたいのは、5つあるすべての文型で使える動詞はないが、一方で、複数の文型で使われる動詞もあるということである。
- SV
- SVC
- SVO
- SVOO
- SVOC
文型ごとに注意すべきポイントを以下に図解する。第3,4,5文型は他動詞なので、受動態でも使われる。
第1文型(SV)の自動詞の特徴
第1文型の動詞は、後ろに目的語も補語も伴わない。ただし、consistやresultのように、前置詞とセットではじめて意味をなす動詞が多数あるので注意しよう。
第2文型(SVC)の自動詞の特徴
第2文型の動詞は、後ろに補語を伴う。補語には、名詞と形容詞があるので複雑だ。ただ、論文で使われる第2文型の動詞は、図に示す6つしかないので覚えておこう。
第3文型(SVO)の自動詞の特徴
論文で使われる動詞のうち圧倒的に種類が多いのが、第3文型の動詞だ。中には、目的語の後に決まった前置詞を伴うものがあるので注意しよう。このような動詞は、受動態で使われることが多い。”is associated with“のように、本来の主語は文中に示されないパターンで使われるのだ。
第4文型(SVOO)の自動詞の特徴
話し言葉の文型である第4文型は、論文ではあまり使われない。もっぱら第4文型の動詞として使われるのは、feedだけだ。given, administer, prescribeも第4文型受動態で使われることがあるので注意しよう。
第5文型(SVOC)の自動詞の特徴
第5文型の動詞のうち、補語として名詞や形容詞を伴うものは、非常に数が限られているのでチェックしておこう。名詞のみを補語とする動詞は、name, designate, term, callのみだ。 一方、形容詞のみを補語とする動詞は、render, makeのみである。considerだけは特別で、名詞、形容詞に加えて、to不定詞句も補語とする。to不定詞を補語とするパターンは構造が複雑だ。特に、”is thoguht to do“のような受動態のパターンのみで使われる動詞は多数あるので注意しよう。
「動詞+to不定詞」の型の特徴
to不定詞の用法には、名詞句、副詞句、形容詞句の3つがあって文型の判別が困難だ。そこで、「動詞+to不定詞」の形で使う動詞として理解すると単純だ。右図の動詞は、70%以上の高確率で「動詞+to不定詞」の形で使われる。文型を判断しようとせず、「動詞+to不定詞」の動詞とだけ理解しておこう。
辞書を調べると、多くの動詞が他動詞と自動詞の両方で使われることに驚かされる。しかし、実際に論文で、他動詞と自動詞の両方で使われる動詞はそれほど多くない。従って、ライフサイエンス辞書コーパスなどを使って、実際の論文での動詞の用法を確認することが重要である。
主語の位置の法則
ここで、覚えておくとよい知識として、「主語の位置の法則」がある。「文の主語は、文頭もしくはイントロ(副詞・副詞句・副詞節)の直後に来る」という法則だ。動詞の直前とは限らないのだ。また、イントロと主語は、通常、カンマで区切られる。
図の例では、文の前半が接続詞Althoughに導かれる従位節(副詞節)であり、主節の主語は”the exact function”である。ここでのポイントは、名詞の前にある冠詞・代名詞・形容詞・名詞は、まとめて名詞(主語)とすることだ。
分析例
以下は、分析例である。主語の位置の法則のとおりBecauseで始まる副詞節の直後のweが主節の主語である。主語の直前のカンマを確認しておこう。
ここでポイントとなるのが、主語をどのような塊と考えるかだ。上述した文の主要素のルールに従えば、Becauseの後の主語はgenesではなく、その前の2語を含む”these 95 genes”ということになる。このように捉えれば、主語の位置の法則が成り立つのだ。さらに、後半の”we predicted that ,,,”のthatも接続詞だ。目的語となるthat節を導いている。このthatの直後のsomeも法則どおり主語である。一方、someの後の”of these genes”は、someを修飾する形容詞句である。
このように、主語の位置の法則のポイントは、主語は文の冒頭にあり、必ずしも動詞の直前にあるのではない、ということだ。一方、目的語や補語は動詞の直後に来るので、その点にも注目しよう。
名詞の後ろの前置詞句は形容詞句であり、一方、動詞の後ろの前置詞句は副詞句であることも確認しよう。さらに、thanは特殊な接続詞なので注意しよう。通常、thanの後では、主語もしくは副詞(句)以外が省略される。
まとめ
文法力を鍛えるためには、文の構造分析を行うとよい。動詞の文型を見極め、文の主要素と副要素を見極めるのだ。もちろん、構造が解けない文に出会うこともあるだろう。しかし、少なくとも自分で構造が解けない文構造を、論文で使うべきではないだろう。
文法事項を調べたいときには、英文法大全という解説サイトが有用だ。一方、個々の単語の用法を調べたいときには、事項で説明するライフサイエンス辞書コーパスが大変役に立つ。前述した動詞の文型のように、辞書では網羅的に意味や用法が示されている。しかし、大切なのは実際にどのような使われるかだ。それをするためには、実際の論文での用例を確認することが望ましい。
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