英語論文執筆で最も大切なことの一つは、ロジックの組み立てである。しかし、英語の論理は、日本語の論理とは少し異なる。そのため、英語の論理をうまく表現できない日本人は少なくない。注目すべき日本語の特徴は、「論理性の欠如」と「つながりの欠如」である。以下の内容には、特に注意を払って文章を組み立てることが重要だ。
英語の論理と日本語の論理の違いを理解する
日本の教育では、「著者が言いたいことは何でしょう?」というような問題設定がなされることが多い。そうすると、読者は著者の言いたいことを推し量るべきだという考えがすり込まれてしまう。このような刷り込みが起こると、著者は読者を納得させるべきだという立場に立てなくなってしまう。ここで、英語の論理と日本語の論理の違いが浮き彫りになる。著者は自分の主張を読者に明確に説明しなければならない。これが英語の論理である。特に論文では、それ以外の解釈はありえないという論理展開を行わなければならないのだ。
このような違いを反映してか、日本語の文章には、英語の文章と比べて明らかな論理性の欠如が見られる。そのため、日本語の論理に沿って書かれた論文は、多くの英語論文の読者にとって分かりにくいものになっている。因果関係が不明確で論理が飛躍しているし、そもそも前後の文で、話がつながっていないことがよくある。箇条書きを連ねたような文章を書く人が多いのだ。以下、違いについて考察する。
英語の論理:因果関係を明確にする
英語の論理は、因果関係で成り立っている。特に、冒頭で主張を述べる逆因果関係のパターンが、英語のAcademic writingの典型的な手法である。このようにすると、論理展開はきめて直線的になる。
日本語の論理:読み手による推測や共感に期待する
日本語の論理は、読み手による推測や共感に基づいている。ただ、読み手の推測に期待しすぎるため、しばしば、論理展開にギャップが生じる。もちろん、英語でも読み手の推測に期待はするのだが、その程度が日本語とは異なっている。そのため、日本語の論理はあまり直線的ではない。むしろ、複数の関連事項を並べる、遠回しな論理展開が多い。
具体例
具体的な例を挙げるので、じっくり読んでみよう。
以下の文は、因果関係が間接的で、論理にギャップがある。そもそも、説明が不足している。日本語では、読み手の推測に期待しすぎるため、説明が不足し、論理ギャップが生まれやすい。
天気が荒れていたので、外出できなかった。
そこで、一日中、読書した。
これを、次のように修正すると、因果関係は非常によくなる。ポイントは、マーカーをつけた部分で同じ表現を使い、しりとりゲームのように組み立てている点である。
天気が荒れているときに外出すると、濡れる可能性が高い。革靴が濡れると傷むので、外には出られなかった。
そこで、外出はせずに、一日中、読書をした。
最初の文の最後に示した新情報「濡れる」が、2番目の文の最初で旧情報「濡れる」となる。2番目の文の後半では、新たな新情報「外に出られなかった」が登場し、3番目の文の前半で旧情報「外出はせず」になっている。このような組み立ては、「新情報→旧情報」のテクニックと呼ばれる。
もし、最初の文章を次のように修正したら、どうだろうか?「熱っぽかった」と「天気が荒れていた」とは、ほとんど因果関係のない事象である。そのため、仮に文章の説得力が上がったとしても、因果関係の論理はむしろ悪くなっている。これが、日本人にありがちな複数の関連事項を併記する、まるで箇条書きのような表現方法である。よくない例の典型といえるだろう。
少し熱っぽかったし、
天気も荒れていたので、外出できなかった。
そこで、一日中、読書した。
「旧情報」で、文と文のつながりを作る
上の例では、「新」→「旧」→「新」→「旧」のパターンを作ることが重要だと思われるかもしれない。しかし最大のポイントは、そこではない。冒頭文の以外のすべての文に「旧情報」を入れて、「文と文のつながり」を作ることである。日本語は、同じ言葉の繰り返しを嫌う傾向がある。そのため、日本人が書いた英文は「旧情報」が不足しがちなので注意しよう。そして、文と文のつながりを足がかりに、因果関係の論理を明確に組み立てることが最大のポイントだ。
タイトルの専門用語キーワード
文と文のつながりを作る旧情報として、特に有効なのが専門用語キーワードである。論文において、専門用語は一貫して同じものを使うことが望ましい。なぜなら、不用意に用語を変えると、同じものを指しているのか、違うものを指しているのかが分からず、読者が迷うからである。そして、Introductionの執筆では、タイトルに含まれる専門用語キーワードを使うことが特に重要である。何について説明しようとしているのか、その一貫性が最初から明確になるからである。
タイトルで研究対象と着眼点を示す
別記事でも述べたように、Introductionでは研究対象と着眼点について説明することが重要である。実は、この2つは同じようなカテゴリーものであることが多い。簡単に言えば、IM-1で紹介するのが研究対象で、IM-2で紹介するのが着眼点となる。研究対象と着眼点を示す専門用語キーワードをタイトルに入れると読者の理解が深まるはずである。
And-But-Thereforeの展開を作る
論理展開の基本は、同等関係(And)、対立関係(But)、因果関係(Therefore)の3つだ。英語の論理の基本は因果関係だが、実際の文章では3つの論理展開をうまく組み合わせなければならない。
以下に示すようなつなぎ表現を使うと、簡単に論理展開を作ることができる。代表的なつなぎ表現には以下のようになる。
並列・追加・例示
Andのつなぎ表現には、以下のようなものがある。特に重要なパターンとしては、for exampleなどの例示と、furthermoreなどの追加である。
And, also, in addition (to), furthermore, moreover, for example, in fact
ButやThereforeでないつながりは全てAndとなるので、展開の作り方が難しい場合があるので注意したい。
逆接・対比・譲歩
Butのつなぎ表現には、以下のようなものがある。逆接のつなぎ表現の代表例がhoweverである。一方、althoughなどの従位接続詞は、一つの文の中で対比関係を作る。
But, however, although, whereas, despite, in contrast (to), unlike, on the other hand
つなぎ表現以外では、否定表現を使うことが、Butの要素を作る際に重要だ。
因果関係・順接・まとめ
Thereforeのつなぎ表現には、以下のようなものがある。
Therefore, hence, thus, so, consequently, due to, because (of), in summary, together, collectively
主張を述べる最も重要な部分である。パラグラフの最後に来ることが多いが、他の場所に来ることもある。
IntroductionのAnd-But-Therefore構造
例えば、Introductionの展開を考えてみよう。まず、IM-1で「背景情報」の説明を行う。IM-2では、Andの要素として新たな「背景情報」を述べる。次に、Butの要素のとなる「問題提起」を行う。最後に「そこで本研究では…」と、Thereforeの要素でIM-3につながっていく。まさに、Introductionは、And-But-Therefore構造でできている。
しかし、実際のIntroductionの構造はもう少し複雑であることは、論文特有の構造に関する別記事で述べた。Introductionでは、「背景→問題→解決」の繰り返し構造が使われるのだ。これも、まさにAnd-But-Thereforeの繰り返しであり、典型的なパターンとも言えるものだ。
まとめ
英語の論理展開は、明確な因果関係が基本である。これを作るためには、以下の2つの手法を用いることが有効だ。
- 旧情報で、つながりを作る。
- And-But-Thereforeで、明確な論理展開を作る。
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